名作になるはずだった『新編水滸画伝』(巻の1) | 信州小布施 北斎館

名作になるはずだった『新編水滸画伝』(巻の1)2022年12月11日

こんにちは、学芸員Nです。

前回から約3ヶ月というスパンでブログ投稿となりました!

今回も開催中の展覧会「絵から読み解く!新編水滸画伝」のご紹介です。

まもなく開催から1ヶ月が過ぎようとしていますが、多くのお客様にご来館いただいています。

先月は本書の初編を執筆した曲亭馬琴、その専門家である板坂則子先生による講演会も実施されました。

専修大学名誉教授である先生のお話はわかりやすく、またいろいろなセンテンスが盛り込まれて水滸伝に詳しくない方でも楽しめる内容でした。

さらに当日参加者には特別に歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」や北斎の『忠義水滸伝画本』の特別鑑賞がありました。

ガラスや額に納められていない、生の作品を間近で鑑賞する企画は板坂先生発案によるものです。

(先生、ありがとうございます‼︎)

北斎と馬琴は読本でタッグを組み多くの作品を残しています。

今度は水滸伝ではなく、他の作品についてもお話を聞いてみたいものですね。

 

それでは展覧会のお話に戻りましょう!

『新編水滸画伝』は文化2(1805)年に初編初帙(巻之一〜五)が出版されました。

九編91冊(初編巻之一分冊の場合)からなり北斎読本の最長作品になります。

作者は曲亭馬琴、挿絵は葛飾北斎、そして版元は角丸屋甚助です。

水滸伝について話すと延々と続いてしまうので割愛しタイトルに従いお話しましょう。

というのもこの『新編水滸画伝』は二編から九編が馬琴ではなく高井蘭山が作者になってしまいます

また二編は初編刊行の文化初頭からおよそ20年後の文政11(1828)年に大阪の版元、河内屋茂兵衛から出版されるという不思議な出版事情があります。

実はこれ、以前私がブログであげた「そののゆき」の事情と重なってきます。

詳しくはこちらを参照

アッと驚く読本挿絵のアッと驚く作品背景

 

このとき馬琴が執筆を断ったのは「そののゆき」だけでなく『新編水滸画伝』も含まれていたのです。

馬琴が断ったことにより本の刊行ができなくなった角丸屋は版を売却します。

それが長い年月をかけて大阪に渡り、作者を変えることで再出版に至ったというわけです。

ですがその文をみて北斎は「馬琴には及ばない」と感想を漏らしたそうです。

蘭山は水滸伝の原文をほぼそのまま訳したのに対し、馬琴は内容を整理し自身の物語として執筆していたのです。

いわば「馬琴の水滸伝」だったわけです。

読者も中国由来の原文を読むより分かりやすく、また読んでいて面白い馬琴の水滸伝のほうが気にいるに決まっています。

なので本作は挿絵も含めて初編が特に高い評価を得ています。

「もし馬琴が最後まで執筆していたら・・・」と考えると残念でしかたありません。

初編初帙の巻末に本作の広告が出ていて、本来なら100冊本となる予定だったことがわかります。

この100冊には馬琴独特の解釈によるストーリーが盛り込まれるはずだったのでしょう。

 

とはいえ『新編水滸画伝』も内容は「水滸伝」そのものなので極端な相違はなく壮大な物語が展開されています。

小布施町にある図書館「まちとしょテラソ」の司書の方に館蔵するおすすめの水滸伝をご紹介いただきました。

 

書名//水滸伝・上・中・下 奇書シリーズ

著者//駒田信二

100回本、120回本、70回本と大きく分けて三種類ある水滸伝小説。

その中で本書は120回本とされます。梁山泊の好漢の集合から壊滅まで

描かれ、他の100回本、70回本と比べて読後感が違いますが、水滸伝の

すべてを読みたい、という方にオススメです。

 

書名//吉川英治全集44・45 新・水滸伝

著者//吉川英治 

ほぼ完結を迎えながらも未完の大作となった吉川英治の絶筆。梁山泊の好漢の

集合まで描かれ実質70回本とみなすことも出来るでしょう。70回本が生まれた

理由が水滸伝は好漢の集合までが一番面白い、という理由もあるそうなので、手軽に

水滸伝の世界を味わいたい、という方にオススメです。

 

書名//水滸伝1巻~19巻

著者//北方謙三

19巻の大作。水滸伝を原点としつつ、独自の解釈や創作を加えたほぼ別物の作品。

北方謙三ならではのエッセンスが入り、水滸伝を別の角度から楽しめるのではないでしょうか。

 

北斎館で展覧会をみて水滸伝に関心をもった方は、ちょっと図書館に寄って本を読んでみるのもいいかもしれません。

 

https://www.town.obuse.nagano.jp/lib/

 

気がつくと長文になってしまいました。

次回ブログでは北斎の挿絵についてみてみましょう。

 

カテゴリー:学芸員のつぶやき

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