企画展「北斎と不思議な空間」が始まりました。その3 | 信州小布施 北斎館

企画展「北斎と不思議な空間」が始まりました。その32021年12月17日

こんにちは、学芸員Nです。

展覧会紹介のはずが「その3」まで引き延ばしてしまいました。

今回で最後にしましょう。

 

ではセクション3「自然を表現する」を見てみましょう。

このパートでは目に見えない自然現象を北斎はどう空間に表現するのかをテーマとしました。

例えば「風」、この自然現象に対して北斎は2つアプローチをしています。

『北斎漫画』の風を表現するページでは薄墨で視覚化された風を直接描いています。

分かりやすく目にみえる「風」を描いたわけです。

これが「冨嶽三十六景 駿州江尻」では視点を切り替え、周りの風景から風が吹いているよう意識させる描き方をしています。

雲一つない富士、飛び舞う笠や紙、身をかがめる人々をみると強風が吹いているのが一目瞭然です。

絵が伝える視覚的情報というのが豊富であることを実感させます。

個人的に好きなのが「冨嶽三十六景 山下白雨」。

この雷の表現を北斎は読本など、いろんな場面で描いています。

ぜひ展示室で他の雷の様子をご覧ください。

 

セクション4は「立体描写を先駆ける」です。

この項目立てのきっかけは今年有名になった新宿の3D猫です。

日本では「だまし絵」など不思議な作品がありますが、恐らく皆さんも額から飛び出してくるような絵を見たことがあるのではないでしょうか。

同じ原理を北斎も作品に活かしています。

分かりやすい例がこちら。

『寒燈夜話小栗外伝』より橋から飛び降りる図です。

姫の着物の一部が四角い枠(匡郭-きょうかく-といいます)からはみ出して描くだけで、まるで画面から飛び出してくるように見えます。

『富嶽百景』ではこんな感じ。

富士山の雄大さを伝えたかったのか、飛び出る山頂が印象的な作品です。

普通の絵師なら枠内に納めて描くのに対し、反骨精神でしょうか?結構多くの作品でこのような表現を活用しています。

 

セクション5の「空間を幻想する」は見てもいない世界を表現した作品を集めました。

典型的なのか「諸国瀧廻り 木曽路ノ奥阿弥陀ヶ滝」です。

滝下から本来見ることのできない滝口を描いています。

それも幻想的に表現しているので、まるで異世界から水が流れ込んでいるかのようです。

『富嶽百景』には「宝永山出現」が描かれています。

宝永山が噴火したのは1707年(宝永4)、当然北斎は生まれていません。

でも北斎はその当時の混乱した様子をまるで見てきたかのように描いています。

イマジネーションが半端ないです(;゚Д゚)

 

セクション6は「画面を超越する」、セクション7は「鳥目で俯瞰する」と題しました。

「画面を超越する」は本来1頁もしくは見開き2頁で描かれる絵を複数頁使って一図に表現するものを集めました。

 

こちらは『北斎漫画』にある「似西洋銃海魔伐・弓締」です。

ページをめくると大砲の玉が海魔に命中するというものです。

ほかに複数枚の作品を2点展示していますので会場でご確認ください。

 

「鳥目で俯瞰する」は文字通り鳥瞰図の作品です。

有名な「東海道名所一覧」をはじめ、自ら「幻想作品」をうたう「百橋一覧」などを展示しています。

四角い画面に地理度外視ではめ込んだかのような「東海道名所一覧」。

限られた空間に描き切る北斎の空間認識能力が際立つ作品ですね。

実はお客様受けが一番良かったりします。

まるで双六のように描かれているので、日本橋から京都まで辿ってみるのも楽しいと思いますよ。

 

最後の8「失われた空間」は版本において後摺のため墨の表現が省略されてしまった作品を比較しています。

例えば『三七全伝南柯夢』よりこちらの作品

愛している人を失った悲しみ、復讐を果たすも虚しさしか残らない気持ちを墨一色の背景で表現しています。

後摺になるとお金のかかる墨摺の背景はバッサリとカット。

心象が伝わってきません。

昔は現代の印刷とは違い増版になると作品の表現が変わってしまうこともざらにありました。

まさに「失われた空間」です。

 

最後のラストスパート。

実はセクションの1~8は「こんな表現がありますよ」という見本みたいなもので、本番は版本展示室の作品群になります。

北斎の空間表現が一番輝くのは版本の世界だと思います。

そこには風景版画にはない人々の心の様子が描かれているからです。

特に読本の挿絵を手掛けた作品には怪談や伝記物など幻想的な内容を含むものが多くあります。

北斎の空間表現はその世界観を見事に再現しているといえるでしょう。

ここ最近、よく展示利用される『釈迦御一代記図会」などは非常に面白い空間表現をしています。

使える顔料の制限もあったでしょう。

北斎の空間表現はモチーフを際立たせ躍動感を与えるものが非常に多いです。

だからこそ、その作品群は評価され「絵入読本此人より大いに開けたり」(『増補浮世絵類孝』)と言われるようになったのです。

 

強引に3回に詰め込んだ展覧会概要もこれでいったんお終い。

今回北斎館は118点の作品を飾り皆さんのご来館をお待ちしています。

これから雪が降り、閑散期になるのでじっくり作品と対することができます(;^ω^)

旅の寄り道に小布施北斎館の不思議な空間をお楽しみください。

 

以上、学芸員Nでした。

カテゴリー:学芸員のつぶやき

メールマガジン登録e-mail newsletter

北斎館からの葛飾北斎に関する特集記事、限定キャンペーンなどの情報配信を受け取りませんか?