北斎館収蔵「祭屋台」大解剖③

雪中せきれい

小動物の力強い生命力を描く

雪の中でエサを求めて飛来したせきれいを写実的に描いています。

ピンと伸びた尾の様子を一直線の鉄線描で描き、小さな生命力の力強さを表現しています。また寒さにも負けない、せきれいのふっくらとした胴体、降りしきる雪の情景とがみごとに調和して、動物界の生命力を感じさせてくれます。

落款は「前北斎卍筆」となっていますので、七十歳代半ば頃の作品と考えられます。


東町祭屋台編

みなさんは経験がありませんが、かつては小布施でも夏の旧暦6月(現在の7月ごろ)、伝統行事として祇園祭がにぎやかに行われていました。

この祇園祭の花形は、祭屋台です。小布施には7つの町に祭屋台があり、子どもをはじめ町民が自分の町の祭屋台を引いて、町内を練り歩いたものです。

今回は、前号に引き続き、代表的な東町祭屋台をさらにくわしく観察してみましょう。

祇園祭とはなに? 

京都祇園祭の山鉾

京都祇園祭の山鉾

真夏には、暑さのためにさまざまな病気が起こりがちです。

そんな病気や災いが起きないように、神様に祈る行事が日本では平安時代(870年頃)から始められました。

山鉾とよぶ山車をつくり、そこに神様が降臨して病気や災いをとりのぞくと考えられていました。

ですから有名な京都祇園祭の山鉾、飛騨高山祭の屋台、大阪岸和田のだんじり、福岡博多の祇園山笠など、日本各地で呼び名は違いますが、悪霊退散の行事として続いているのです。

 

 

小布施には7基の祭屋台を展示

飛騨高山祭の屋台

飛騨高山祭の屋台

小布施でもかつては盛大に祇園祭が行われていました。

そのとき使われた7台の祭屋台が北斎館とおぶせミュージアムに展示・保管されています。

北斎館には、東町と上町の2台(県宝)、おぶせミュージアムには、中町、横町、伊勢町、福原、六川の5台の屋台(町宝)が展示されています。

いずれも江戸末期から明治初期にかけてつくられた豪華な屋台です。

 

東町祭屋台

東町祭屋台

東町祭屋台

長野県宝に指定されている東町祭屋台は、江戸時代後期の文化3(1806)年に造られた町でもっとも古い屋台です。
天保(1844)年にこの屋台を改造するとき、高井鴻山が北斎先生に頼んで天井絵を描いてもらいました。

北斎先生は、約半年の歳月をかけて「龍」と「鳳凰」の2枚の天井絵を描きました。
「龍飛鳳舞」という言葉が残されているように、龍と鳳凰は、大空を駆け回り、お祝いや縁起のよい伝説上の生き物とされ、祇園祭の病気払いにはうってつけの絵柄です。

屋台は高さ4・74メートル、幅2・01メートル、奥行き3・33メートルある頑丈な造りになっています。

 


天井絵「龍」図

天井絵「龍」図

北斎先生が描いた龍図は、縦1.23メートル、横1.26メートルの桐の板に描かれています。

龍は、中国の想像上の神獣あるいは霊獣で、おめでたいときに現れ、雲を呼び、雨を降らす力をもっていると信じられていました。古くから日本は中国の影響を受け、人々の間には、陰陽説と呼ぶ、万物はすべて陰と陽でなりたち、お互いがバランスをとりあいながら存在するという思想が信じられていました。

龍はこの陰陽説では陽にあたり、龍図でも明るい紅の背景の中に描かれています。

龍図では海上を飛び回るかのように、波しぶきが龍を取り巻き、時計回りに体が動いているのが分かります。

これはもう一つの「鳳凰」図(陰)と相対する形をとり、龍と鳳凰が見つめ合う姿になっています。

天井絵「鳳凰」図

天井絵「鳳凰」図

鳳凰も中国の想像上の神獣、霊獣とされる縁起がよい生き物です。

体に五色の羽を持ち、甘い水しか飲まないと言われています。陽の龍に対して、陰の鳳凰を意識して、北斎先生は暗い藍色をベースにして鳳凰を描いています。

また、龍図とは逆に反時計回りに描かれた鳳凰の尾は、胴体部分に比べ、明るい金色に輝いています。ここにも陰陽の考えが反映されています。

大きさは縦1.23メートル、横1.26メートルの桐の板、頭の上には冠羽根、尾羽根は孔雀の羽を想像させる豪華な色彩で描かれ、いまにも絵から抜け出してとびまわりそうな迫力があります。

陰陽説とは何?

陰陽説

宇宙のあらゆるものは、「陽」と「陰」の二つの要素でできているという中国の古くからの思想からおきた説です。

例えば、天と地、夜と昼、男と女、火と水、光と闇のように、相反する現象や事物がお互いに調和して存在することで、大自然の秩序が保たれているという考え方です。

この考え方を示したのが太極図です。白い部分が「陽」、黒い部分が「陰」を表しています。白と黒の二つの部分が調和して、きれいな円が描かれるのです。

北斎先生の「龍」(陽)と「鳳凰」(陰)がこの太極図の構図のように描かれているのがわかりますか。