北斎先生の絵をテーマ別に見てみよう②

「三島の玉川」

三島の玉川

三島の玉川

農家の庭先で、農夫とその妻が砧を打つ風景です。

砧とは、織り上がった反物を仕上げる際に布を叩いてやわらかくし、ツヤを出す作業のことです。

また「衣板」に由来し、衣を打つための石や木製の台のこともいいます。布を半乾きの状態で棒にまきつけ、台にのせ、保護のための布をかぶせて杵でトントンと打ちます。

背後に咲くのは「ウツギの花」で、略して「卯の花」とも呼ばれます。
茎の芯の部分が空洞であることから「空木」となったとされます。

この絵では「打つ木」にかけてあるのも興味深いところです。

 

 


logo_24_02

北斎先生はお金に無頓着で、生涯、引っ越しを繰り返しました。大衆のなかで生きた先生は、江戸の暮らしや風俗をさまざまに描きました。

つつましく働く家族、花を愛でる農夫など、庶民の姿を描いた作品から、先生のあたたかな眼差しが感じられます。


働く人々のさりげない姿

杣人と雁

杣人と雁

「杣人と雁」の杣人は、山で木を切る「きこり」のことです。
仕事道具の「まさかり」に片足をのせて、ひと息ついて休んでいます。

頬杖をついて見つめるその先は、晩秋の空でしょうか。渡り鳥の雁が列をなして飛んでいきます。

 

月下猟夫

月下猟夫

「月下猟夫」では、火縄銃を抱えた猟師が鹿笛を吹いています。
鹿笛は、鹿の鳴声とよく似た音を発し、鹿をおびきよせることができます。

空には満月と、やはり雁の群れが描かれています。

 

 

 

 

 

野人対瓶花

野人対瓶花

「野人対瓶花」では、ひとりの農夫が割れた鉄鍋に生けられた牡丹を見上げています。

農夫と花という取り合わせはめずらしく、普通ならば身分の高い人を描くところですが、北斎先生ならではの取り合わせといえるでしょう。

どの画面からも、働く庶民の清らかさ、そして暮らしの中のつかの間の静けさが感じられます。

ほかにも先生は、漁師、大工、船頭、駕籠を担ぐ人など、さまざまな職業の人々を描いています。

 

 

 


江戸の風俗と庶民の暮らし

猿橋橋上角兵衛獅子

猿橋橋上角兵衛獅子

「猿橋橋上角兵衛獅子」に描かれる角兵衛獅子とは、新潟市南区(旧西蒲原郡月潟村)を発祥とする郷土芸能です。

角兵衛という農民が、凶作や飢饉から農民を救うため、獅子舞でお金を集めたのがはじまりとされています。

7歳から14歳くらいまでの少年が獅子頭をかぶり、街角で逆立ちやとんぼ返りなどのアクロバットを演じます。

猿橋は、山梨県大月市猿橋町の桂川に今もかかる橋です。

この橋を、角兵衛獅子の一行がわたっています。子どもたちは親方とともに、芸を披露しながら各地を旅してまわっていくのです。

 

 

京都の伏見には、天から降ってきた「金札」の言い伝えで知られる「金札宮」があります。
この縁起をもとに観阿弥は謡曲『金札』をつくりました。

「金札と面」には、能で使われる天津太玉神のお面も描かれています。

江戸時代には数々の謡本が出版され、庶民も謡曲に親しんだようです。

北斎先生は、こうした江戸の風俗を描きましたが、そこから庶民の暮らしが垣間見えるのです。

金札と面

金札と面