北斎漫画大特集②

「象と盲人」

『北斎漫画』には、たくさんの動物が描かれています。右に掲げたのは象の絵ですが、果たして先生は実際の象を見て描いたのでしょうか。現代のように動物園があったわけではありませんし、日本にはいない動物です。

しかし、先生はもののみごとに、白い象を描いています。象の背中に乗ったり、足や鼻、きばにさわったりしているのは、目の不自由な人たちです。この絵は「群盲象をなでる」というインドの諺を描いたものです。目の不自由な人たちが、象の一部分をさわって、象とはこういう動物だと感想を言い合います。しかし象全体のことはわからない。つまり物事の一部だけを見ただけでは、全体がわからないという教訓を描いたものです。


自然・人物・生活・風俗・建築物
なんでもありの一大イラスト集

北斎先生の名前を日本はもとより、世界に知らしめたのは、全十五編にわたる『北斎漫画』です。

前号で紹介したように、『北斎漫画』は現代のマンガとは違い、この世の中に存在するありとあらゆるもの、また伝説や想像上のものを一つひとつ、時には忠実に、また時にはコミカルに描いた絵の百科事典、つまり今日で言う壮大なイラスト集です。

それでは今回は、『北斎漫画』の中身をくわしく見てみましょう。


 

 

昆虫類、鳥、草花、魚貝類、家屋、橋、中国の伝説上の人物、庶民の暮らしなど。特に魚貝類は細かく描かれ、絵のお手本になります。

またセミやトンボ、バッタなどの昆虫類、ヘビ・カエル・イモリなどの爬虫類など、その動きをみごとにとらえた構図に感心します。また、畳屋・経師屋・鍛冶屋あるいは弓矢を作る職人などの仕事ぶりは職人衆の特徴を細かに捉えています。

 


 

 

龍と鳳凰、釈迦や空海、などの僧侶、庶民の暮らし、荷車や水車などの車、ひょっとこや天狗のお面、包丁や火鉢などさまざまな生活道具、灯籠や墓石などの石造物、山や川・海の風景、魚・獣、傘張り・うどんづくりなどの仕事の風景。

また地獄図も描かれ、閻魔大王や獄吏(地獄の役人)、おそろしい形相の鬼などに興味をひかれます。

 


 

 

神々の姿、稲刈り・脱穀など庶民の仕事、相撲の技、金山の採掘、伝説上の中国人、河童や人魚など想像上の動物、鳥類、文様、風神雷神など。この三編では、絵で遠近法を出すための具体的な描き方を示す三ツ割図やそれを実践した西洋の港町の風景が描かれています。

鎖国時代の江戸で、西洋に行くこともなかった先生が、西洋の家をみごとに描いているのにはびっくりさせられます。

 


 

 

 

四十歳代半ばから五十歳代前半までの北斎先生は、読本の挿絵画家として活躍していました。滝沢馬琴や柳亭種彦といった有名作家の作品の挿絵を手がけました。

先生のダイナミックな挿絵は大きな反響を呼び、今で言うベストセラーの本がたくさん出版されました。実に193冊、総計1,150余りもの挿絵を描いたと言われています。代表作には『新編水滸画伝』、『椿説弓張月』、『新累解脱物語』などがあります。

 


 

 

 

先生は文化七(1810)年に初の絵手本『己痴羣夢多字画尽』を出版します。それに伴い、読本挿絵から本格的な絵手本へと移行します。

その理由は、前号でお話したように、門人たちが増え、手本となる絵を描き与える不便さや全国に先生の画風を広めようとしたこと、また先生の挿絵を下書きに利用する職人たちの増加などがあげられます。さらに読本挿絵の経験から、全国に広めるには、本にするのが効果的であると考えたのでしょう。こうして先生は絵手本に力を入れることになったのです。


 

 

 

『北斎漫画』十五編の中身はいくつかのジャンルに分けられます。

それは動植物など自然界の様子、庶民の生活や道具、寺社建築や神様など、鉄砲や刀・弓矢などの武具、伝説や想像上の動物・妖怪、中国や異国の人の姿などです。

それでもこのジャンルに収まらない絵もあり、その種類の多さには驚かされます。